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【2024/04/25 20:02 】 |
椅子取りゲームの勝者のために(子供)
子供の貴方。
僕の執事は有能だ。
ファントムハイヴ家といえば当主であるシエル・ファントムハイヴの名が挙がるが、それともう1つ。黒い執事のことが出てくる。
名前までは世間に広まることは無いけれど、眼帯をした当主と黒い執事。
その2つの姿でファントムハイヴ家という存在が広まっているのだから可笑しい話だろう。
普通は眼帯をした当主ひとりの筈。それで十分なのだ。
それなのに・・・――――


「お前は目立つんだ」

手に半分ほどのシャンパンが入ったグラスを片手に、シエルは呟く。
それプラス、壁の方にある数個の椅子に腰を掛けて“ダンスはお断り”というサインを周りにアピールしていた。
もう2人も相手をしたのだ、十分だろう。
周りはそのアピールを受け入れているのか、チラチラ視線を向けてくるものの声を掛けてくる様子は無かった。

「目立つから悪い」

再び意味もない言葉を口にする。
口にするとは言っても本当に小さな声であるので、音楽が鳴り響くこの場なら近くにいる人にも聞こえないだろう。

シャンパンを片手に椅子に座るシエルの視線は今自分がいるところの左側にある壁へ、否、その壁の前にいる黒い執事へと注がれていた。
その黒い執事はというと、他の女性に囲まれた状態でニッコリと笑みを浮かべている。
自分のようにシャンパンも持っていないし椅子に腰を掛けていないので、もしかしたらダンスに誘われているのかもしれない。
燕尾服を着ているからといって諦めるような女性たちには見えなかった。

彼は実に有能な執事だ。
それに加え、周りからは眉目秀麗だと言われ、気に入られることが多い。
それは勿論女性から、そして男性からも声を掛けられている様を度々見かける。
当主である自分の隣に立っているときは「仕事中ですので」と、同じようにニッコリと微笑みながらかわすのだが、自分がダンスの相手をしている時や、他の仕事相手と話をするために席を外させると、彼は話しかけてくる連中をかわすことなく(いや、違う意味で色々かわしているのだろうけれど)一緒に話をするのだ。

シエルにとってそれは大層気に入らなかった。

だからなのか。
自分から彼に「話しをするな」という命令は出していない。出したくないのだ。
それは嫉妬を知られるのが嫌だからとか、そういうことではなく。
そんな命令をしてしまったら、まるで自分もあの連中と同じように彼に溺れているかのように思えてしまうから――――

しかしあの執事は、悪魔は・・・恋人は、そんな自分の胸の内を知っているのだろう。
だからこうやってダンスが終わった後にも関わらず彼は自分の元に来ないのだ。

――――貴方が呼びに来てください

まるでそう言うかのように。

この私が誰のものなのかを見せ付けたらいいでしょう?
聞かなくても聞こえる彼の胸の内の声。
きっと自分の声もこうやって聞こえているに違いない。

お前は誰のものだ―――

この自分の声が。


シエルはため息をついて立ち上がる。
もう挨拶も済み、ダンスも終わった。あとは帰るだけ。
その為にはどちらにしても彼の元へ行かなくてはいけない。
シエルは立ち上がったことによって周りからの視線が強くなったことは気にすることなく、彼の元へと歩を進める。

「・・・かしら?」
「・・・・そうですね、私は~」

近づくにつれて聞こえてくる女性たちの楽しそうな声と、あの悪魔の声。
女性たちの声よりも悪魔の声を聞いて苛立つのは仕方の無いことだろう。

「セバスチャン」

少し離れたところから声を掛ける。
いつもよりも大きめなソレは周りの人がこちらに注目するが、注目されているのはいつものこと。
それに、これこそ彼が望んだことなのだ。

「―――坊ちゃん」

その声に反応して彼が、セバスチャンが視線をこちらに向け、笑みを零す。
彼女たちに向けるニコヤカさではなく、セバスチャンの笑みを。
そして彼はもう貴方たちに興味などないとでも言うかのように別れの声を掛けずに女性たちの間をすり抜けてくる。
その歩みに淀みなどなく、むしろ嬉々としているかのように軽い。
いや、まずその声が愛しい者の名を紡いでいるのだということが分かるだろう。
――――それほどこの瞬間に名前を呼ぶ彼の声は甘いのだ。

「随分待ちましたよ」
「それは僕の台詞だろう」
「いいえ、私の台詞です」

シエルの元に来たセバスチャンはすぐさまシャンパンを取り、手にしていたコートをシエルへと着せていく。
預けたそれを手にしていたということは、やはりもう帰るということを分かっていたらしい。
そしてその手は少し忙しないもので。

「私が目立つのではなく、貴方が目立つのですよ」
「っ・・・!!」

先ほどの言葉を口に出され、頬が熱くなる。
どんなに音楽が響いた場所でも、悪魔の耳にはしっかりと届いていたらしい。
彼のことで頭がいっぱいだったシエルにはそこまで考えていなかった。
それにセバスチャンはクスリと笑うが、その瞳はまるで燃えるように真っ赤で。

「さぁ坊ちゃん、帰りましょうか」


そう一言。
いつもよりも大きな声で言い、


そしてまるで何かから隠すかのように、
シエルの背中に手を回して、



コツリと歩み始めた。





椅子取りゲームの勝者のために


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【2011/11/21 23:36 】 | Project | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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