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【2024/04/26 10:17 】 |
鍵のない檻(子供)
子供の貴方。
鍵のない檻(リクエスト)




いつだって当主は、否、自分は威厳高くなければいけない。
それは己のプライドでもあるけれど、少しでも隙を見せれば泥沼に足を引っ張られる位置に自分が存在しているからだ。
勿論それは裏社会だけでなく、表社会でも。

けれど、時に我侭だって言いたくなるのは仕方が無いだろう。
人間には“欲望”というものを持っているのだ―――だからこそ人間は成長することが出来るのだが―――だから常に完璧な人間であることは不可能。
だがその我侭をどこで言うか、ということさえ重視すれば問題はない。
たとえば執務室で1人でいるときなんかは、別に我侭をしてもいいだろう。別に誰かに見られているわけではないのだから。
まぁ、そもそも服の上着を脱ぐことくらい我侭のうちに入らないと思うのだけれど・・・。
あの完璧主義者の悪魔、いや執事はそのようなことすら許さないのだ。
たとえ誰かが見ていなくとも隙を作るなど言語道断だと言うだろう。
彼のあの完璧すぎる完璧さは賞賛に値するものだと思うが、それをずっと求められている“人間”の身にもなってみろとも言ってやりたくなる。

だが、
今はその口煩い執事もいない。

(別に・・・少しくらいいいだろう)

もうすぐで仕事の時間も終わり、バスタイムになる。
なら少しくらい着崩したっていいだろう、このあと人と会う約束もないのだから。
たとえ後々文句を言われたとしても先にやったもの勝ちだと言ってやればいい。
シエルはズラズラと・・・ようするにただの言い訳を頭に並べながら一人頷き、己の首を絞めるネクタイへ指を引っ掛ける。
自分で服を脱ぐことなどほとんどしたことがなくとも、何度もネクタイを解く様などは見てきているので、多少手元が危なげであってもそれくらいなら出来るだろう。
シエルは今までセバスチャンがしてきた仕草を真似て、まずは首元を緩め、そして首に回っている片方を引っ張り、シュルリと解いていく。
ゆっくりと、ゆっくりと、シュルシュルと音を立てて解けていくソレ。
自分の力で解いているのと、他の人が解いているのとはまた全然違った感覚で、なんだか口元が緩んでしまう。

解き終わったネクタイを書類の載った机の上にそっと置き、今度はきっちりと閉められているボタンへと手を掛ける。
ボタンは見て学んでいても簡単に出来るようなものではなく、やはり経験が浅いシエルにとってボタンは敵であり、試練の場だ。
それでも首元を緩め楽になりたい一心で、シエルは仕事中よりも真剣な顔つきでボタンを睨み、震えてしまう指先でボタンと闘う――――だからシエルは気が付かなかったのだ。この部屋に足音が近づいているなんて。

「あ、」

ようやくボタンが1つ外れ、今度は素直に笑みを零す。
それは無意識な笑みで、ボタンを外す事が出来た達成感からだ。
だが、その笑みはすぐに消されることとなる。

―――コンコン、

その音が響き渡った途端、シエルはビクリと身体を跳ねかせ音のした扉の方を見つめた。
しかしすぐに返事の言葉が口から滑り出てこない。
まだこの扉の向こうにいるのが例の執事かどうか分かっていないというのに。
いや、たとえ彼であったとしても“先にやったもの勝ち”だと笑ってやればいいと・・・そうしてやろうと思っていたのだから問題はないのだが・・・。

―――コンコン、

それでもシエルは返事をすることが出来ないでいる。

暫くの沈黙後。

「お手伝い、しましょうか」

その言葉と共に扉が開く。
一切音を立てずに。
勿論扉の向こうには、

「ねぇ、坊ちゃん?」

例の執事が瞳を赤く輝かせて微笑んでいた。


「・・・いや、いい」

首元にあった手で今度は逆に襟首を絞めるように・・・―――隠すかのように襟首を握り、セバスチャンに背を向ける。
ここで想像していたような彼だったらまだ良かっただろう。
“執事”として怒り、そして自分は“当主”として怒られるだけなのだから。

「そんなことを仰らずに」

だが今彼は、執事などではない。

コツリと歩を踏み出す音。
それと共に先ほど聞いたシュルリという音。
それは自分が立てた音とは違い、素早く高い音で、けれどどこか焦れたような音で。

「私が、脱がして差し上げますよ」

それは、
恐ろしいほどに耳の良い、
音に欲情した、

悪魔の音。

「すべてね」






頬に触れた彼の手は
すでに火傷してしまうくらいに熱かった。





鍵のない檻

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【2011/12/24 18:37 】 | Project | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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