(大人パロ)
もういいだろう、伯爵。
まだ、まだ駄目です。ここは明るすぎる。
明るさなんて関係ない、私と君との間ではね。
明の光を浴びて行う秘め事と、暗の闇に隠れて行う秘め事・・・僕は後者の方が好きですよ。水の滴る音まで聞こえそうで。
全く、焦らすのが得意な子猫ちゃんだ。
ではまた後ほど。あの部屋で待っていますよ。
遠くから聞こえる一歩手前の睦事。
片方は見るにも耐えないくらい鼻の下を伸ばした雄豚に、片方は漆黒の露を帯びる己の主人。
赤い瞳を細めて、主人の長く伸びた髪をいじる雄豚の汚らしい手を見ては、相手を殺さぬよう手の平を強く握る。
これは相手を誘う罠なのだ。
妖麗に輝く自分を餌として、相手を吊り上げる罠。
女王の番犬として仕事をしているに過ぎない。
それでも、気に食わないものは気に食わない。
「セバスチャン」
先ほどとは違い、色気も何もない声で呼ばれる名前。
それにセバスチャンはあえて答えず、その場から動かない。
「セバスチャン?」
その様子に首を傾げながら足を踏み出し、セバスチャンへと近寄ってくる。
代わりに雄豚と距離は離れていき、その汚らしい手から逃れていった。
「おい、どういうつもりだ」
「お邪魔してはいけないかと思いまして」
「・・・もう話しは終わっていただろう」
「相手の方はそう思っていらっしゃらなかったようですよ」
傍まで来たシエルは腰に手を当てて名前を呼んでも来なかったセバスチャンを怒るが、謝る気持ちなど一ミリもない。
怒られたことによって落ち込むことも、ましては反省する気などないのだから。
むしろ、子供の頃と代わらない仕草で怒る姿を見て安堵の息を吐いた。
「・・・お前はまだ怒るのか」
不機嫌な様子のセバスチャンに気付いたのか、シエルは呆れたようにため息をつく。
「本当に身体を繋げることはしないと言っても、この方法が最善だとは思いません」
「別にいいだろう。他のことをするよりも手っ取り早い」
「あんな汚い手に触られているというのにですか」
「・・・髪の毛しか許していないだろう」
「髪の毛ぐらいなら触るのを許してやると?」
「そういうつもりじゃないが・・・」
言葉を重ねるも、どこか余裕の表情があるシエルにセバスチャンは舌打ちをし、雄豚が触っていた髪の毛に触れてかき上げる。
綺麗に整えられていた筈の髪型はセバスチャンの手によって崩され、まるで寝起きの時のような髪型だ。
自分の手によって乱れた姿を見るのは、大層気分がいい。
「・・・まだ仕事が残っているんだが」
「また後で私が直してあげますよ」
「そういう問題か?」
「そういう問題です」
「・・・ったく」
乱れた髪を気にしつつも、セバスチャンの好きにさせるシエル。
嫉妬したセバスチャンを宥めるには、今のうちに好き勝手させるのが一番だ。
それは過去に抵抗した時の末路を経験した今だから言えること。
今回のように相手を吊り上げるための罠を仕掛ける時には、もうこうなることを諦めている。
吊り上げる相手ではなく、セバスチャン相手に身体を明け渡すなんて可笑しな話だ。
それでもいいと思うのは、きっと全てがわざとだから。
「嫉妬は恐ろしいな、セバスチャン」
――――本当に身体を繋げることはしないと言っても、この方法が最善だとは思いません
あぁ、そんなこと分かっている。
だからこそこのテを選ぶんだ。
お前の嫉妬する姿が見たいがために。
僕はお前に何をされてもかまわないと、抵抗を諦めたぞ?
だからお前もそろそろ僕に振り回されることに。
諦めろ。
end

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