嘘はついていない。
「だから!恋人同士になるなんて、そんな馬鹿げた罰ゲームをする必要などないだろう!」
「いいえ。こんな奴と恋人になりたくない、と言われたとなると私も黙っているわけにはいきません」
ただ、言葉が少ないだけで。
何度も坊ちゃんは私を説得した。
こんな罰ゲームをする必要などないと。
どうしてそこまでただ仮初の恋人同士をすることを嫌がるのか―――きっと、無意識に自分の心の蓋を開けられるのが嫌なのだろう。
悪魔に想いを寄せているだなんて、きっとこの人間には認めたくない真実なのだ。
(まぁ、それでも手放してやる気はサラサラないのですが)
「では坊ちゃん、恋人同士では一体どんなことをすると思いますか?」
優しく問うた、その意味は酷く単純だ。
―――ただ違和感を消すために。
この人間は警戒心が高く、酷く物事に敏感で。
だからゆっくりと、ゆっくりと、ジワジワとこの“恋人である私”を染み込ませる。
しかし彼の行動はいつも自分の斜め上にいくから困ったものだ。
「もし僕に大切な人が出来たのならば、そいつを僕から遠ざける」
女王の番犬、裏社会の秩序、そんな名前がついているにも関わらず、彼の根はこれでもかというほど優しく。
たまにその綺麗さは壊したくなるものだけれど、同時に
「欲しいときは欲しいと言って。相手のためを思って諦めるだなんて、少し寂しいですよ」
守りたいとも思う。
大切にしたいとも思う。
だからきっと無意識に、
「お話してくださって、ありがとうございました」
凄く楽しかったですよ。
頭を撫でてしまったのだろう。

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