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【2017/09/25 02:34 】 |
Spicyな疑問
Spicyシリーズ




いつも一人だった世界に誰かが入ってきたら、最初からソレを味方だと信じ込めるだろうか。
孤独に紛れ込んできた、温かいとも冷たいともとれないソレを。
もしも相手が少しずつ近づいてきて優しく手を差し伸べてくれたのならば、味方だと信じることが出来るようになるだろう。
だが、少しずつではなくいきなり近づいてきて手を差し伸べられたのならば、きっと不信感でその手を払い落とす。
僕ならば、確実に。
たとえ少しずつ近づいてきたって信用ならないだろう。

なら彼は?
彼は僕の世界にいきなり入り込んだかと思えばズカズカと土足で近寄り、愛を囁いた。
信じなかった僕はその手を払い落とすが、彼は諦めずに再び手を伸ばし・・・それどころか口付けまでしてきた。
どんなに辛辣な言葉を掛けたって、彼は僕を求めてくる。
必要以上に愛を囁きながら、僕自身を求めてくる。
裏社会の秩序ではなく、女王の番犬ではなく、そして。
餌としてではなく・・・。

ここまで僕を求めるのならば、彼の愛は本物だと信じていい。
けれど。
彼は、味方か?

愛を囁きながら近づいてくる敵だっているだろう。
たとえ自分を愛しているからって、それが味方とは限らない。
もう信用していないわけではないが。

・・・・・・・・。

・・・この気持ちは何なのだろう。
僕は一体何をこんなにも悩んでいるのだろう。
彼を味方だと思えない理由は?
彼を敵だと決め付けない理由は?

僕の世界に入り込んできた瞬間、排除しなかった理由は?


― Spicyな疑問 ―


外は雨。
青い空は灰色に染まりながらポツポツと雨粒を世界に濡らし、植物たちに恵みをもたらしている。
そんななか、シエル・ファントムハイヴの屋敷では。

「随分と不機嫌だねぇ・・・伯爵」

客室に2つの影。
この屋敷の主人であるシエルと葬儀屋、アンダーテイカーだ。
先ほどまで仕事の話しをしていた二人だったがそれも終わり、一息ついたところだった。

「まぁ、ちょっとな」

シエルは紅茶に口をつけながら曖昧に返す。
自分が今何に対して怒っているのかを話せる筈がないのだから。
あのタンスの中での出来事を他人に喋れる奴がいるのなら、その顔を見てみたい。
しかしアンダーテイカーはいつものように引きつったような笑いをしながら、こちらの的を正確に射て来る。

「あの執事君と何かあったんだろう?」
「・・・・・・なぜそう思う」

表情を動かしはしなかったが、質問を質問で返してしまうなんて、その通りですと言っているようなものだろう。
内心で舌打ちしながら紅茶をソーサーに戻し短く息を吐けば、相手は長い爪をこちらに向けて「分かるさぁ」と答えた。

「見てたらね、きっと誰にでも分かることだよ。まずあの執事君が伯爵の傍にいないことで、不自然なんだから」

そう、今この客室には2つの影“しか”ない。
いつも傍に付き添っているセバスチャンの姿がないのだ。

理由は至極簡単なこと。
シエルが出て行けと命令したからだ。
いつもは命令に背いて部屋から出て行こうとしないのだが、アンダーテイカーがいる手前、執事の姿を剥がすわけにもいかず、眉を顰めた状態のままこの部屋から出て行った。
(いつもそうしていればいいものを)
仕事中には忘れることが出来ていた憎たらしい悪魔を思い出し、ギリリと奥歯を噛む。

「・・・別にそこまで不自然じゃないだろう」
「そうかなぁ、あの執事君が来てから伯爵が一人になるところなんて、ほとんど見たことがないよ」
「まぁ、アレは執事だからな」

執事の前に内心で“一応”と呟く。
アレが本当にただの“悪魔で執事”でいてくれるのならば、こんなに困ることもなかっただろう。

「そんな忠実すぎる執事君なのに、どうしていつも喧嘩ばかりするのかねぇ・・・ヒヒヒ」
「アイツが嫌味ばかり言うからだろう」
「伯爵が怒ってばかりのせいもあるんじゃないかい?」
「怒らせているのはアイツだろう?」

笑うアンダーテイカーをジロリと睨みつければ、「そういうことじゃなくてぇ」と袖の長い服をヒラヒラと横に振った。

「伯爵はいつも執事君に対しては怒りを露わにするから、執事君もつい口を開いちゃうんじゃないかなぁ?」
「・・・どういうことだ」
「あれぇ、伯爵じぶんじゃ気付いてないんだ」
「・・・もったいぶっていないでさっさと言え」
「ほんと、伯爵は短気だねぇ」

わざとらしくため息をつきながら、持ってきていた骨型クッキーをつまみ上げ、半分だけ口に含んでパキリと音を立てて折る。

「伯爵は常に怒っているように見えるけれど、実はそうでもないんだよ」
「常に怒っていて悪かったな」
「だぁかぁらぁ、そう見えるだけだって言っただろう?たとえ怒ったとしても、それはすぐに抹消され記憶から排除される。まさに不必要だといわんばかりにね・・・」
「・・・・」

言われた言葉にシエルは眉を顰める。
それはつまり。

「ようするに、伯爵は執事君以外のことは正直どうでもいいんだよねぇ」
―――その歪んだ顔。いつもはあまり見られないものですから

アンダーテイカーの台詞に、思い出したくも無い記憶が重なった。

「・・・・ッ!!」

一瞬にして頬が熱くなったような気がして、シエルは咄嗟に額に手を当てて顔を隠す。
まるで呆れてものが言えないような様子を演じるが、きっとこの動揺は綺麗に隠せていないだろう。

「そんなこと、あるか」
「あるから言ったんだけどなぁ」
「黙れ」

貴様は僕じゃないだろう、とか。
随分と面白い勘違いだ、とか。
頭に言葉が浮かんでくるが、言葉に形成される前に消えていく。
なぜなら。

アンダーテイカーの言われたことが勘違いでもなければ、間違った答えでもないからだ。

でも、セバスチャン以外をどうでもいいとは思っていない。
エリザベスのことは大切だし、この屋敷にいる他の使用人も、いい傭兵だと信用している。
仕事にだって苛立つことはあるし、裏社会の住人に怒りを覚えることだって沢山ある。
だが。
それをセバスチャン相手のように我慢出来ずに露わにするかと聞かれたら、答えはノーで。
でもそれは相手がセバスチャンだから遠慮せずに文句が言えるというだけで。
いや、でもどうしてその相手がセバスチャン“だけ”なんだ?
(・・・ちがう、そうじゃない)
セバスチャンだけなのは、嫌われても別に構わないからで。
傷つけてもいいと思っているから遠慮なく言ってしまうだけで。
僕はアイツが少し触れただけで怒るのだから、

―――じゃぁ逆に聞きますが、ならなぜあの時拒絶しなかったのですか?いつも少しでも触れたら怒るでしょう。

(ちがう!)
ちがうちがうちがうちがう、そうじゃない。

今日この部屋から追い出したのだって、あのタンスの中での出来事をまだ怒っているからで。
だから出て行けと命令したんだ。
アンダーテイカーの前でなら執事の皮を剥がすようなことはしないと見越して。

「伯爵?」
「あ・・・」

黙り込んだシエルを心配したのかアンダーテイカーから声が掛けられ、シエルはビクリと肩を揺らしながら顔を上げた。

「・・・何だか泣きそうな顔しているねぇ。そんなに執事君のこと以外をどうでもいいと思っていた真実が嫌だったのかい?」
「いや・・・そういうわけじゃ、ないが」

シエルはなんとか自分を落ち着けさせるために、ソーサーに戻した紅茶をもう一度手に取り、冷めたそれを喉に流し込む。
身体が熱いせいか、それはいつもの温さよりも冷たく感じ、酷く心地よかった。
それを黙ったまま見つめていたアンダーテイカーが小さな声で「随分と人間に戻ったね、伯爵」と呟いたのを、シエルには届いていなかった。

「まぁ伯爵が執事君のことをどう思おうと伯爵の勝手さぁ。伯爵の心は伯爵のものだからね」
「何だか気持ち悪い言い方だな」
「そう?それこそ真実だよ」

ヒッヒッヒ、と笑いながらアンダーテイカーは立ち上がり、扉の方へと歩を進めながら言う。

「“思い”も“気持ち”もその人のもの。他の人が手を出していい領域じゃないんだよ。たとえ死んでしまったって、しっかりその人はソレを持っていくだろう?」
小生は今までしたお客さんの中でソレを忘れていった人はいなかったよ~。

それにシエルがワザと残していく人はいるかもしれないがな、と苦笑すればアンダーテイカーもそうかもしれないねぇと同意し、再び笑う。

「けれどソレもその人のもので、他の人がどうにかすることは出来ない。形や色を変えようと手を出したって、その本人が変えようという意思がなければ変わらないんだよ」
「・・・・」
「だから無理やり相手の気持ちを変えようとしたり、自分に向かせようとしたって駄目なのさ」

アンダーテイカーは言いながら、扉に手を掛ける。
その言葉はシエルに向けられているような感じがせず、別の誰かに言って聞かせているようだ。
だが、誰に?

「もし無理やりに相手のソレを変えようとしたら、きっと壊れてしまうよ。ソレは皆が思っているより繊細なものだからねぇ」
「・・・アンダーテイカー?」
「だから、大事に扱ってやらないと」

手を掛けた扉を開く。
音を立てて開いた先には屋敷の廊下が映り、そして。

「そうだよねぇ、執事君」

セバスチャンが立っていた。

「セバスチャン?!」

驚きに目を見開くが、セバスチャンはこちらに視線を送ることなくアンダーテイカーを無表情で見つめている。
その瞳は赤々と煌き、冷たさが滲み出ていた。

「大事にしてばかりだと、ソレにも贅肉がついてしまいますよ」

嫌味な笑みを浮かべセバスチャンはアンダーテイカーに答えを返す。
その姿はあの執事の姿ではなく、セバスチャンそのものの姿。
だがアンダーテイカーは特に気にした様子もなく、少し違うかなぁ、と若干鋭い声で言った。

「ソレには贅肉がついた方が、深く穏やかな人間になれるんだよ」
「・・・全てがそうだとは思いませんが」
「それは否定できないねぇ」

笑いながらセバスチャンの横を通り抜け、足を止めて振り返る。

「じゃぁ伯爵、小生はそろそろ帰るよ~」
「え、あぁ・・・」
「何かあったら、いつでも店においで」
仕事じゃなくてもね。

その言葉にピクリと反応したのは黒い悪魔の方で。

「玄関までお送りします」
「いいや、ここでいいよ。勝手に帰るから」
そしたらまたね、伯爵。

ヒラヒラと手を振りながら、再び歩き出す。
(よく分からない奴だな・・・)
その後ろ姿を止めることも、そして止める理由も思いつかずにシエルはただ見つめることしか出来ない。
しかしそれもすぐに終わりを告げた。

見つめていた筈のアンダーテイカーの背中が、ただの扉へと変化したのだ。
いやそうではなく、セバスチャンが扉を閉めたのだ。

「そんなに見ていなくていいでしょう」
「は?」

掛けられた言葉に眉を顰め相手に視線を向ければ、そこには瞳を輝かせたままの悪魔の姿。
(コイツ、何をこんなにも怒っているんだ・・・)
部屋から閉め出したことを良く思っていなくても、それをアンダーテイカーにまで向ける必要はない筈だ。

「・・・・・・・・」

そこで、ふとシエルは先ほど己の中で考えたことを思い出し、セバスチャンへ向けていた視線を気まずげに逸らした。
別に自分に疚しいことがあるわけでもないし、何か悪いことをしたわけでもない。
だが、何となく目線を合わせていられないのだ。
それをどう思ったのか、セバスチャンは見るからに不機嫌さを露わにし、いつもよりも低い声で言う。

「葬儀屋さんの後ろ姿は見ていたいけれど、私のことは見たくもないと」
「・・・さっきから貴様は何を」
「先日のことをまだそんなに怒っていらっしゃるのですか」
「・・・・ッ!!」

まるで先日のこと・・・タンスの中での出来事を怒っている自分のことを馬鹿にするような言い方に思え、目の前にある空になった紅茶のカップを投げつければ、相手は音も声も無くソレをキャッチした。

「怒るに決まっているだろうッ・・・!!」

声を荒げシエルは叫ぶ。
しかしやはり目線はどこか逸らしたまま。
いつもならば、あの赤い瞳に穴が開くかと思えるほど睨みつけるのに。
先ほどアンダーテイカーに言われた言葉、そして考えたことに、心の底から怒ることを防ごうとしている自分がどこかにいるのだ。
それで溢れ出てくる怒りが止むことはないというのに。
シエルは内心で舌打ちをした。

「もう貴様の遊びにはこりごりだ」
「遊びではありませんと、以前も申し上げたはずですが」
「・・・遊びじゃなくても、貴様のアレはもうゴメンだ」
「・・・・」

シエルの言葉に何かを返すことも無く、セバスチャンはキャッチしたカップを近くの小さな机に置く。
コトンと置かれた音は、何かを抑えているような、どこか物悲しげなような、なぜかそんな音に感じた。
しかし自分から何か言えるような雰囲気でもなく、シエルはそのまま黙り込む。


暫くの間、客室には沈黙が訪れた。
仕事中の沈黙はよくあるが、そこには必ず筆を走らせる音が響いている。
だが今は何の音もしない。

(なんだ、この空気は・・・)

身動き1つで何かが壊れてしまいそうな感覚。
これはまるで薄く張った氷のようだ。
少しでも触れば、または揺らせば、その氷が壊れてしまうような・・・そんな感覚。

だが、いつまでもこんな状態を続けていられるわけではない。
きっといずれかはどちらかが壊すだろう。
(それは僕か、セバスチャンか・・・)
別に今自分が壊してしまえばいいのだろうけれど、それも躊躇われる。
それはやはり先ほどの考えがあるからだけれど。

自分がこの空気を壊すことは許されないと、何かが自分に告げているのだ。

もしかしたらそれは本能からの警告かもしれないし、別の何かなのかもしれない。
どちらにしても、シエルは今自分から動くことは躊躇われた。


沈黙が訪れてから数分。
シエルには何時間も経ったかのように感じられたが・・・。
そこでやっとセバスチャンが口を開いた。

「やはり、私には無理ですよ」
「・・・何がだ」
「大事に扱うことなんて出来ない。だってソレは目の前にあるんですよ?」

一瞬なんのことを言っているのか分からなかったシエルだが、すぐにアンダーテイカーが最後に言った言葉だと理解する。

「セバス、チャン・・・」
「どう足掻いたって私は悪魔なんです。欲しいものは欲しい」

細められた瞳がどう考えても獲物を狙うソレで。
シエルは反射的に逃げようと立ち上がるが、グイっと腕を引かれてそのまま客室のソファに倒されてしまった。
どんなに相手との間に距離があったとしてでも、それが一瞬にして縮められてしまうのだからたまったもんじゃない。

「なッ!どけ、退けろッ!!」
「私は坊ちゃんを愛しています」
「ッ!!」
「私は坊ちゃんが欲しい」
「だ、まれ・・・黙れッ!!」

煩い・・・うるさいッ!!
逃げようともがき、手でセバスチャンの頬を叩くが、相手は自分の上から退けようとはしない。
それどころか、名前を呼びながら優しくこちらの頬を包み込んでくる。

「や!やめろっ」

その優しさも拒絶するように首を振って嫌だと叫ぶ。

「私が欲しいと思った時点で、貴方は私のものです。魂だけではなく、その存在さえも」
「ふざけるな!僕は僕のものだ!」
「いいえ、私のものです」

その言葉を吐いているとは思えないくらい優しい手付きで頬を撫でられ、シエルは思わず瞳を閉じてしまう。

「坊ちゃん・・・」

柔らかく、セバスチャンは目元も撫でていく。
どんどん吐息も近くに感じて。

「セバス・・・チャン・・・」

そのまま口付けられた。




ここまで僕を求めるのならば、彼の愛は本物だと信じていい。
けれど。
彼は、味方か?

彼を味方だと思えない理由は?
彼を敵だと決め付けない理由は?


―――ようするに、伯爵は執事君以外のことは正直どうでもいいんだよねぇ



僕の世界に入り込んできた瞬間、排除しなかった理由は?





To be continued…

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【2011/06/23 17:11 】 | Series | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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